【大学選手権】最後のインカレに懸ける立命館大FP阿見勇太は、選手権からの成長を示せるか

【大学選手権】最後のインカレに懸ける立命館大FP阿見勇太は、選手権からの成長を示せるか

 その金髪はひと際、目立っていた。

 いまは名前が変わったトルエーラ柏がFリーグ・ディビジョン2のクラブとして、初めて日本一になった第26回全日本フットサル選手権大会の1回戦の話だ。

 三重県営サンアリーナのメインアリーナには、2つのフットサルコートが作られ、同時に試合が行われていた。同時刻に行われていたポルセイド浜田(F2/島根)とFCミラクルスマイル(四国/愛媛)の試合を撮影していたのだが、何やら隣のコートで行われていた長岡ビルボードFC(北信越/新潟)と立命館大学体育会同好会オールワン(関西2/滋賀)に雰囲気のある選手がいた。

 白い肌に金髪、すらりと長い脚。そして、背番号10。普段、サッカーの原稿を書く機会が多いだけに、パッと見た時の印象は「ケビン・デ・ブライネみたいなやつがいるなぁ」だった。後方からゲームを組み立てるレフティは、攻撃時には右サイドにポジションを取り、積極的にゴールを狙う。ただシュートは雑で、まだまだ粗削りなのだが、感情をむき出しにプレーする姿には、自然と目が奪われた。

 立命館は長岡ビルボードに4-2で勝利し、1回戦を突破。そして2回戦では、F2の浜田を破ったFCミラクルスマイルと対戦した。

 立命館は2度のリードを奪いながらも、同点に追いつかれてしまい、試合は延長戦へ突入する。2点目の失点は、後半終了間際でチームにとってもダメージの大きいものだった。延長に入ってからも一進一退の攻防が続いたが、ミラクルスマイルに逆転を許してしまう。後がなくなった立命館は、パワープレーを開始。試合時間残り7秒、右サイドから仕掛けた10番は、相手のファウルを誘発する。そしてフリーキックを獲得した。このフリーキックをFP山内隆之祐が直接決め、立命館は土壇場で同点に追いついた。10番を背負ったFP阿見勇太は、山内に抱き着くと同時に号泣していた。

 PK戦で一番手のキッカーを務めた阿見は、シュートをGKに当てながらもゴールに決める。サドンデスにもつれたPK戦を立命館は6-5で制して、3回戦進出を決めた。

 シーズンの最後に行われる全日本フットサル選手権には、選手たちは様々な思いをもって臨む。それでも、いくら劇的だったとは言え、延長戦で勝ち越したわけでもなく、同点に追いついた時点で人目をはばからずに泣く選手も珍しい。特別な想いを持ってこの大会に臨んでいることは明白だった。

 その翌週に行われた3回戦で、立命館大は関東代表のオーパと対戦する。延長戦を含めて13ゴールが乱れ飛んだ試合で、阿見はゴール前のこぼれ球を押し込み、2-1と勝ち越した際のゴールを決めた。

 残り4分まで4-1とリードし、4回戦進出が視野に入っていた立命館だったが、誤算があった。リードをされていたオーパは、残り時間9分という早い時間帯でパワープレーを開始。パワープレーの守備ができる選手が限られていた立命館は、次第に足が止まり始める。そして、徐々に対応しきれなくなり、ここから立て続けに失点を喫した。守備が引き出され、ゴール前でワンタッチパスを逆サイドに送られ、ファー詰めという形で失点を繰り返し、残り2分でスコアボードは4-4となっていた。

 それでも立命館は切り替え、残り2分を切って山内が勝ち越しゴールを奪うと、その直後にもGK船戸拓視がパワープレー返しを決め、6-4とダメ押しゴールを決めた。

 ところが、これがダメ押しゴールにならなかった。不屈のオーパはパワープレーを続けると、1点を返す。残り時間は17秒。立命館はボールを保持できれば、勝ち切れた。しかし立命館はキックオフからボールを奪い返されると、同点ゴールを決められてしまう。 立命館の加藤亜土監督は、「この時にピッチに入っていたのはパワープレーの守備をしないセットでした。それまでも前からのプレッシングがうまくハマっていたので、選手を変えずに前からプレッシングさせた方が自分たちのリズムになると判断しました。そこにセット交代を行う際のエラーも加わって、失点してしまいました」と、唇をかんだ。

 前日も延長戦を戦っていた立命館には、極めて不利な状況となった。そして、延長でもパワープレーを仕掛けてきたオーパのFP小沼真仁に逆転ゴールを決められる。その後の反撃ではシュートがポストに嫌われるなどチャンスを生かせずに、立命館は6-7という衝撃的な逆転負けを喫した。

 この大会、「ジャイアントキリングを起こして、前半戦の目玉になる」(大毛哲郎)という目標をもって戦っていた立命館だったが、組み合わせの妙もあり、Fリーグクラブとの対戦は叶わずに大会を終えた。それでも大学生チームとして唯一、3回戦まで勝ち進んだ。

 

 試合終了と同時に涙をこらえられなくなっていた阿見は、ミックスゾーンでも涙をぬぐいながら、今大会にかけていた想いを口にした。

「今大会に賭けている思いは大きく分けて2点あって。僕は大学に入学してから、何事にも打ち込めず、悪い方向に向かいそうな時に、フットサル同好会から声をかけてもらって、それでチームに加えてもらいました。僕を扱うのは、すごく大変だったと思うのですが、4回生はどんなに僕が悪いことをしても、笑顔でいつも教育してくれました。その4回生を絶対にY.S.C.C.横浜と対戦させるところまで連れて行き、花道をつくってあげたいと思っていました」

「もう一つは、監督の(加藤)亜土さんと決めていた目標です。僕はサッカーではJリーガーを目指せるレベルではなかったのですが、僕のことを気にかけてくれて、根気強くフットサルを教えてくれました。それで2021年夏のインカレを終えたら、サッカーのJリーグのセレクションを受けると決めて、昨日も亜土さんと、その話をしたんです。Jリーガーになる男が、チームを引っ張れなかったり、ゴールを決められなかったり、失点に関与したりしていてはいけないと思いながら、大会に臨んでいました」

 2021年夏のインカレが終わってからは、フットサルの同好会でトレーニングを続けながら、社会人リーグのサッカーチームにも入り、Jリーグクラブのセレクションを受けて、Jリーガーを目指すという。

 Fリーグではなく、Jリーグを選択する理由については、「この金髪もそうなのですが、僕は本当に本田圭佑が大好きで、あの人に追いつき、あの人を追い抜くことを自分の目標にしています。この大会もゴールを決めた後も、本田圭佑と同じゴールパフォーマンスをしたのですが、フットサルにも思い入れはありますが、僕は本田圭佑のところまで行きたいので、Jリーガーを目指して、海外に行きたいと思っています」と、壮大な夢を語った。

 存在感を放った阿見だが、3試合を通してゴールは1点のみ。チームを引っ張っていく活躍ができていないことは、本人も自覚する。

「活躍できた部分もあったかもしれませんが、やっぱり試合を決められない。今日のように苦しい時に、大舞台であまり活躍できない。その思いというのは、今後、自分の原動力になると思います。今大会、自分は決定機でシュートを決められなかった。その悔しい思いが、今大会で得られた一番の部分だと思います」

 彼にとって、大学生活最後のフットサル大会となる第17回全日本大学フットサル大会の関西大会が22日に行われ、立命館大は1回戦で8-1と近畿大学和歌山に勝利すると、準決勝の同志社大戦も3-2で競り勝ち、決勝に進出。そして、決勝では甲南大を4-1で破り、関西王者となった。  準決勝、決勝の集合写真には、髪が黒くなった背番号10の姿はあるが、チームが結果を伝えるツイッターの得点者のところには、「#10阿見」という記述はない。チームの勝利に貢献するプレーができたのかもしれないが、まだまだ彼の理想とは程遠いはず。

 次のステップに進むためにも、8月27日から29日に行われる全国大会では、しっかりと自分の価値を証明する必要がある。

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