[女子選手権]悔しさをバネに圧倒的な存在感を示した丸岡ラックFP高尾茜利「言葉にできない」

高尾茜利の大会――。

今大会を、そのように総括しても決して間違いではないだろう。昨年、まさかの予選リーグ敗退に終わって悔し涙を流した彼女は、試合終了後にスタンドの仲間たちに挨拶をするとき、堪えきれずに歓喜の涙を流した。
ずっと欲しかった金メダルを首から下げ、「重いです」と笑ったあと、「本当に……」と続けて言葉に詰まる。そして次に出てきた言葉は「……よかった」だった。

「うれしいとかでもないし、感動というのでもない。わからないです。今の自分の気持ちを表す言葉が」

外から見れば、いとも簡単に相手をかわして、ゴールネットを揺らし続けていた。しかし、実際には余裕などなかったという。

「今回の大会は、すごくつらかった。グループの組み合わせを見た時点で、(前回女王のアルコイリス神戸がいて)普通にヤバイって思うじゃないですか。しかもチーム状況も、全員で練習できているわけではない。それでも私はラックのみんなが好きだし、だから、このメンバーで優勝したいという思いでやってきたから。だからもう、本当にわからない。言葉にできないです」

おそらく福井丸岡ラックの選手たちも、アルコイリス神戸の選手たちも、組み合わせが決まったときに、初戦に勝たなければならないと思っていたはずだ。その初戦が1-1で終わったとき、高尾は何を考えたのか。

「良かった、というよりは勝ち切りたかったですね。(先制したが)すごくもったいない形で失点をしてしまっていたから。しかも自分が裏を取られたのもあったから。自分たちは試合の入りが悪いことがわかっていて、前半のキックオフのときは『立ち上がり、失点しないようにしよう』と声を掛けていたんです。でも、後半に入るときは、話し合わなかった。あの失点がなければ、予選もすごくラクな気持ちで戦えたと思うので、本当にもったいなかった。でも、終わっていなかったし、チーム全員、あきらめていなかった。ずっと大会期間中、チームは良い雰囲気でした」

自ら先制点を挙げたものの、強く印象に残っていたのは失点シーンの方だった。続く第2節、福井丸岡ラックはSC水都キングフィッシャーを8-0で退ける。普通であれば、得失点差に余裕が出てもおかしくない点差だ。ところが、アルコイリス神戸はメッセ仙台レディースに12-0で勝利していた。最終節を前にして、首位のアルコイリス神戸との得失点差は4もあった。その時のことを率直に「ヤバイと思いました」と振り返る。

「得失点差とか、ワイルドカードで上がるのは得意だったんです。でも、今回は競う相手がアルコだったので、『ヤバイ』と思っていた子もいたと思います。それでも、みんな『絶対に行ける!』って話し合っていました」

グループステージ第3節は、語り継がれるであろう展開となった。福井丸岡ラックとアルコイリス神戸は、ひたすら相手からボールを奪い、ゴールを決め続けた。このとき隣のコートで、アルコイリス神戸がどれくらい得点を挙げているのか、高尾はほとんど知らなかったという。

「見ていなかったんです。だから終盤まで5点差くらい付けて勝っていると思ったんです。かなり点差を付けていたので、『余裕あるな』と思っていて。それで、パッとスコアを見たとき、自分たちが17-0のタイミングで、向こうは15-0でした。(試合前に得失点差-4だったから)ヤバイと思ったんですけど、試合の記憶はあんまり残っていないです」

とにかく目の前の相手からゴールを奪い続けることに集中した高尾は、試合終了間際の3分間で4得点を記録。終わってみれば、12分ハーフの試合でトリプルハットトリックという獅子奮迅の活躍を見せた。

「あの試合を終えて、死ぬかと思いました。だから、そのあとの準決勝、決勝は、すごくつらかったです。足が動かなくて、走れんかった。でも、『ここを乗り切れば金メダル』と思って、走り切りました。ここまで来たし、絶対に取りたいと思って」

その結果、準決勝のデリッツィア磐田戦でも1得点、決勝のさいたまサイコロ戦でも2ゴールを挙げ、福井丸岡ラックを優勝に導いた。5試合で高尾が決めたゴール数は「15」を数える。20分ハーフの試合が1試合しかないのだから衝撃的だ。

昨年の敗退後、何を最も高めようとしていたのか。そう聞くと、間髪入れずに「決定率。チャンスがいっぱいあっても、決めきれなかったので」という答えが返ってきた。

これだけ多くのゴールを挙げた選手に対して恐縮なのだが、実は個人的に彼女の決定力が際立っているという印象は受けなかった。確かにアルコイリス戦のゴール、メッセ仙台戦の終盤のゴールラッシュのように、大事な場面での決定力は飛び抜けていた。しかし、枠を逸れたシュート、GKに防がれたシュートも倍以上あったからだ。昨年からの進化を感じさせたのは決定力よりも、シュートが決まらなくてもゴールを狙い続けたメンタルの強さ、終盤まで強いシュートを打ち続けたフィジカルの強さだ。

「去年は本当に1試合目、シュートを打っても入らなくてメンタルがどんどん落ちていきました。フィジカルも鍛えました。あとは気持ちです。相手をつぶしに行くっていう気持ちでやっていました」

過去の大会を振り返るたびに、涙ぐむ。
そこには味わった悔しさを晴らすために、過ごしてきた日々が滲んでいた。

そして「いつも悔しい思いをしながら聞いていた表彰式の音楽が、こんなに良い風に聞こえるなんて。楽しかったです。本当につらかったですけど、あきらめなくて良かったです。覚えてないくらい、3試合目、走ってよかった」と、笑顔を弾けさせた。

フットサルを始めてから、最も欲しかったタイトルを獲得した彼女だが、視線はしっかりと先を見ている。

「チームとしては、地域チャンピオンズリーグも日本リーグのプレーオフも残っていますし、全部のタイトルを獲りたいし、個人的には世界でしっかり戦える選手になりたいと思います。まだまだ全然足りないけど、夢です」

その夢への第一歩を1月に刻む。福井丸岡ラックはスペインのバルセロナへ遠征し、1月2日にカタルーニャ州のU-21代表と強化試合をするという。

「親に泣いてお願いしました。『どうしても、行きたい』って。今、バイトもしているんです。レジ打ちのバイト。『ピッ』って(笑)。そのお金も、全部スペイン遠征の費用に充てます!」

日本一を競う大会で圧倒的な輝きを放った18歳は、世界最高峰の国でどのような評価を受けるのだろうか。

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